誤読と曲解の読書日記

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4つの「暮らしの改善法」/今週のお題:「2018年の抱負」

4つの「暮らしの改善法」/今週のお題:「2018年の抱負」:目次

この記事は、はてなブログ今週のお題「2018年の抱負」に参加するものです。

「暮らしの改善法」

アメリカの作家ポール・オースターに『トゥルー・ストーリーズ』というエッセイ集があります(翻訳は柴田元幸氏で新潮文庫から出ています)。

オースター自身や彼の身近な人々が遭遇した、人知を超えたような偶然体験をつづった「赤いノートブック」や、作家として世に出るまでの無名時代の貧乏暮らしにユーモアを織り交ぜながら語る「その日暮らし」など、この本は柔らかかつ軽やかな文章の中にも、人生の醍醐味の深い味わいを感じられるエッセイ集となっています。

この『トゥルー・ストーリーズ』に収められたエッセイの中のひとつに、「ゴサム・ハンドブック」なるタイトルの短めの文章があります。サブタイトルに「S・Cのためのニューヨーク・シティ暮らしの改善法」とあるとおり、ニューヨークという大都市でのより良い暮らし方のアドバイスといった内容のエッセイです。

※ちなみに、ここの「S・C」とは、フランスの現代美術家ソフィ・カルのことを指すようです。本書によると、ソフィはこのエッセイに書かれたアドバイスを元に暮らした記録を本にまとめたというもの。『ダブル・ゲーム』というタイトルで、日本ではおそらく未翻訳。

さて、ここに収められた「暮らしの改善法」では、4つのアドバイスがなされています。わたしはこの「暮らしの改善法」を、「2018年の抱負」に掲げたいと思い立ったわけです。

その4つのアドバイスとは以下のとおり。
1.「笑顔」
2.「知らない人と話す」
3.「物乞いやホームレス」
4.「一点を育む」

わたしはニューヨークという大都会ではなく、九州の片田舎に暮らしていますが、ここで書かれていることはニューヨークでも九州でも、あるいは他のどんな場所でも通用するはずです。


※以下、本書の内容についてネタバレ的な要素が含まれています。

なるべく知らない人に微笑む

この「暮らしの改善法」のひとつめには、「笑顔」という項目が掲げられています。すなわちそれは、「状況として必要ないときでも笑顔を浮かべること。怒りを感じているとき、みじめな気持ちのとき、世界にすっかり押しつぶされた気分のときに笑顔を浮かべること−−それで違いが生じるかどうか見てみること−−」(本書p287)だと、具体的な行動の例を挙げながら説明されています。

いきなり難しそうに思えますが、わたしは次のようにとらえます。たとえば、怒りやみじめさといったネガティブな感情を抱いたとき、わたしたちはその感情のやり場のなさに、いつまでもイライラとしてしまい、あるいは誰かに当たってしまうかもしれません。

でも、そうするよりも笑顔を浮かべることで、自分の抱えるネガティブなものがすっと軽くなったりするのかもしれません。それで、イライラを抱えたまま必要なことまで手が回らなくなったり、誰かに八つ当たりしてしまって無用な争いやいさかいを生じさせるよりはずっと良いはずです。

それに続いて、「街で他人に微笑みかけること」(本書p287)も挙げられています。もちろん、そうすることには場合によっては危険もあります。女性が男性に「間違った思い込みを与え」(本書p287)てしまうこともあるかもしれません。そういうとき、笑顔を向けるのは同性だけであってもいいが、なるべく知らない人に微笑むことが大事だと説いています。

これらはたとえば、いつものコンビニや書店など行きつけの店のよく顔をあわせる店員さんに、感謝のしるしとして笑顔で「ありがとう」とお礼を述べることも含まれるでしょう。それでも、相手から「笑顔が返ってこなくてもがっかりしないこと」(本書p288)。そういったことも、「笑顔」の項目に挙げられています。

考えてみれば、お店でやりとりするときも、事務的で無愛想な金銭と商品の受け渡しだけではなく、そこに人間的なあたたかみのあるやりとり、たとえそれが短いあいさつだけであったとしても、そういったものがあった方が気持ちがいいものです。冷たく無機質なやりとりにはない、人間と人間とをつなぐ何かが確実に存在するような気がします。

自分が誰かに「笑顔」を向けることで、世界は少しあたたかくなる。「笑顔」とはそういうことではないでしょうか。冷たく殺伐とした世界よりはずっといいはずです。

少しだけでも世界をあたたかい場所に

なぜ、このような「暮らしの改善法」は必要なのでしょうか? 他人に笑顔を見せ、会話をすることに、何の意味があるのでしょうか?

オースターは、このエッセイの「知らない人と話す」との項目の中で、次のように述べています。「人間同士をひき裂くものがかくも多く、憎しみや不和がかくも蔓延しているなかで、我々をひとつにしてくれるものたちのことを覚えておくのは悪くない」(本書p289)と。

自分たちのまわりを見まわしてみれば、たくさんの刺激的な言葉や表現にあふれています。攻撃性を含んだ言葉や差別的意図を含んだ言葉もそうです。誰かをけなし、貶めるためだけに吐かれる言葉もあります。人間と人間とをつなぐものを、そういった刺激的な言葉や表現が蝕み、人間同士のつながりを冷たくし、ときには修復不可能なまでに破壊してしまうこともあります。リアルな生活の場でもそうですし、ツイッターなどのSNSでもそうです。

そんな時代であっても、わたしたちができることはあるはずです。そのひとつの指針として、そして理想として、この「暮らしの改善法」は、少しだけでも世界をあたたかい場所にするためのものだと言えるのかもしれません。

この「暮らしの改善法」には、「笑顔」のほかにも「知らない人と話す」こと、「物乞いやホームレス」に少しだけでも施すこと、そして自分の近くにあるどこか「一点を育む」ことが示されています。そのどれもが、少しだけでも世界をあたたかい場所にするため、わたしたちのできる行動を示しています。

そういうわけで、わたしはこの「暮らしの改善法」を、「2018年の抱負」に掲げたいと思います。

参考リンク

1)新潮文庫ポール・オースター柴田元幸訳)『トゥルー・ストーリーズ』
新潮文庫サイトにはなし。絶版の模様。

2)ブクログポール・オースター柴田元幸訳)『トゥルー・ストーリーズ』新潮文庫
http://booklog.jp/item/1/4102451102

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『誤読と曲解の読書日記』管理人:のび
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