『騎士団長殺し』読んでます/2017年2月のまとめ
『騎士団長殺し』読んでます/2017年2月のまとめ:目次
- 『騎士団長殺し』読んでます
- 『誤読と曲解の読書日記』今月のまとめ
- 『誤読と曲解の映画日記』今月のまとめ
- 管理人よりお知らせ
『騎士団長殺し』読んでます
村上春樹の『騎士団長殺し』、早速発売日に入手して読んでいます。今月の後半は個人的に忙しく、その余波がまだあるので、ようやく第1部を読み終わるあたりですが。
ですがここまで読んでみて、たくさんの謎が散りばめられ、先へ先へと誘う筆力はさすがだと言えますね。この物語が主人公をどこへ運び去ってしまうのか、早く結末までたどりつきたいと思う一方で、結末までたどりついてしまうのがもったいないというか惜しいという思いもあります。それはもっとこの物語の世界に没入していたい、みたいなことです。
それでは、今月の『誤読と曲解の読書日記』と『誤読と曲解の映画日記』のまとめです。
滑稽さと面白みの中にある物悲しさと薄ら寒さ/R・ラードナー(加島祥造訳)『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』新潮文庫(村上柴田翻訳堂)
滑稽さと面白みの中にある物悲しさと薄ら寒さ/R・ラードナー(加島祥造訳)『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』新潮文庫(村上柴田翻訳堂):目次
- 誰かが誰かに語りかける物語
- 実にアメリカ的な陽気な笑い
- 人間を噛みすてるような諷刺性
- 「ハーモニイ」を求める姿
- 人と人との調和
- 参考リンク
誰かが誰かに語りかける物語
リング・ラードナー(加島祥造訳)『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』新潮文庫(村上柴田翻訳堂)には、13の短編が収められている。訳者解説によると、リング・ラードナーの書いた短編は、120にものぼるようだ。この本は訳者の加島祥造氏が愛好し、「ラードナーの特色をもよく表わすと思える」(訳者解説p442)短編作品を選び出した『傑作選』となっているものだ。
この本を読んでいくと、わたしたちは本を読むというより、むしろ語り手たちの声に耳を傾けているかのような感覚に陥る。ここに収められた短編では、その多くが誰かが誰かに語りかける形式をとっている。だから、わたしたちは読書というよりも誰かの話を聞いているように思えてくるのだ。その点が、この傑作選の大きな特徴になっている。
また、この傑作選のタイトルでもある「アリバイ・アイク」は、この本の冒頭に収められた短編。「アリバイ・アイク」とは、とにかく何かをするたびに(それが良い結果をもたらしたものであれ、悪い結果をもたらしたものであれ)、「あれはこうだったから、ああなってしまったんだよ」と、弁解する野球選手につけられたあだ名のことある。
ここでの「アリバイ」とは、「弁解」「言い訳」を意味する。アリバイ・アイクのような人物が自分の身近にいたら、おそらくは実に腹立たしく、そして同時に滑稽に思ってしまいそうだが、語り口のおかげでユーモラスな物語となっている。
最後には、アリバイ・アイクのこれから先の人生も、その「アリバイ」のおかげで、「ああ、これじゃあ、うまくいくはずのものもダメになるだろうなあ……」と、脱力感と残念さの入り混じった予感を抱かせるものになっている。まあ、この"脱力感”や”残念さ"みたいなものが、この作品の魅力なのではあるが。
『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』に収められた短編は、この「アリバイ・アイク」のような「実にアメリカ的な陽気な笑いに満ちた」(訳者解説p446)物語がある一方で、「人間を噛みすてるような諷刺性をもつ」(訳者解説p446)物語とに大きく分類できる。
※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。
あたたかなまなざしと、やさしさに満ちた愛情/J・ヒルトン(白石朗訳)『チップス先生、さようなら』新潮文庫
あたたかなまなざしと、やさしさに満ちた愛情/J・ヒルトン(白石朗訳)『チップス先生、さようなら』新潮文庫:目次
- ユーモア精神とあたたかなまなざし
- 平凡な教師、チップス先生
- 人生を変えた出会い
- 爆撃のさなかの授業
- 『チップス先生、さようなら』
- 作者ジェイムズ・ヒルトンとこの物語について
- 参考リンク
ユーモア精神とあたたかなまなざし
ジェイムズ・ヒルトン(白石朗訳)『チップス先生、さようなら』新潮文庫(Star Classics名作新訳コレクション)は、1933年に発表された小説。チップス先生が老後の穏やかな生活を送りながら、過去の学校生活を回想してゆく物語だ。1933年の発表から80年を経た今も、世界的名作として読み継がれている作品である。
こんなにも皆から愛されていたチップス先生は、本当に幸せな教師だったんだなあと、読み終わったあとはあたたかな気持ちになる。そしてまた、自分が子どもだった頃に、こんな先生がいたらよかったのになあと、ブルックフィールド校の生徒が少しうらやましくも感じる。
それは、この物語のところどころに、チップス先生と生徒たちとのやりとりが描かれているが、そのひとつひとつがユーモアと生徒に対するあたたかなまなざしに満ちているからだ。チップス先生は数十年にわたる教師生活を振り返るが、いやな思いをした生徒や悪い思いを抱いた生徒などは、その思い出の中に皆無なのである。チップス先生の生徒に対するあたたかなまなざしと、やさしさに満ちた愛情が見て取れるだろう。
教師を引退して十年以上経ったチップス先生は、かつて勤めていた学校と道路を挟んだ向かい側にある部屋を借りて住んでいる。その部屋で教師時代のことを思い出しては、押し寄せてくる愉快な気持ちと悲しい気持ちをしみじみと味わう。たくさんの生徒たちとのふれあい、厳格だがユーモア精神にあふれた授業…...。わたしたちは、そんなチップス先生の教師人生を一緒に眺めてゆく。
※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。
そういえば、文具についても書いていた件/2017年1月のまとめ
そういえば、文具についても書いていた件/2017年1月のまとめ:目次
- 文具の記事も書けるといいなあ
- 『誤読と曲解の読書日記』今月のまとめ
- 『誤読と曲解の映画日記』今月のまとめ
文具の記事も書けるといいなあ
1月も最終日になりましたが、今年最初の今月のまとめです。今年もよろしくお願いいたします。
さて、このブログはタイトルにも「読書日記」と銘打っていますが、サブテーマとして文具のことを取り上げてもいます。もともとは読書の感想を記録しておくためのブログだったのですが、管理人の文具の趣味についても、ついでに書いておこうということで、文具のカテゴリーをつくり、文具についての記事も書いています。
ところが、昨年末のまとめにも書いたとおり、メインテーマは読書日記のテーマにもかかわらず、2016年の1年間をとおして、このブログで一番アクセス数が多かったのが文具の記事でした。しかも、2016年を通じて文具カテゴリーの記事は、その1本しか書いていないにもかかわらず。
アクセス数が多かったのは、比較的マニアックな鉛筆補助軸についての記事です。他にはあまり鉛筆補助軸についてのブログ記事はないのかな。そうでもないとは思いますが、アクセス数が多いのはありがたいことです。
2016年2月22日更新:鉛筆を使う楽しみが広がる鉛筆補助軸という道具
記事リンク:http://nobitter73.hatenadiary.jp/entry/20160221/1456018772
今年は、もう少し文具関係の記事も書けるといいなあと思っています。
それでは、今月のまとめです。
物足りなさと過剰さが同居する一冊/十川信介著『夏目漱石』岩波新書
物足りなさと過剰さが同居する一冊/十川信介著『夏目漱石』岩波新書:目次
- 評伝ではあるが…...
- 作品と生涯の関係
- 参考リンク
評伝ではあるが…...
本書は、タイトルどおり、夏目漱石の生涯を描く評伝である。漱石の出生から亡くなるまでの生涯を時系列に追っていく。時系列であるがゆえに、漱石個人の生涯の歩みと、そのときどきの漱石の文学作品の解説が織り交ぜられながら語られてゆく。
ただ、漱石作品の解説の部分が細かすぎるのが気になった。夏目漱石の評伝を描く上で、個々の文学作品の解説を切り離すことはできないのだろうが、微に入り細に入りすぎた印象。すでに作品の内容を知っている人には冗長であるし、これからその作品を読んでみようという人にとってはネタバレとなっている。
むしろ、漱石の生涯と作品の解説が知りたいのなら、各文庫から出ている漱石の作品とその巻末にある解説、さらにはそれに加えて、岩波文庫から出ている書簡集など一連の文学先品以外のものをまとめた本を読む方を、個人的にはおすすめしたい。
※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。