誤読と曲解の読書日記

読書の感想を書く日記です。あと、文具についても時々。

すべての藤子・F・不二雄ファンに読まれるべき本〜ドラえもんルーム編『藤子・F・不二雄の発想術』小学館新書


本書は、藤子・F・不二雄先生自身が書いたエッセイや、新聞・雑誌のインタビュー記事などがまとめられたものである。

本書は『発想術』というタイトルが付けられているが、実際は『発想術』にとどまらない、藤子・F・不二雄先生の肉声を集めた本と言えるだろう。

今さら言うまでもないことだが、藤子・F・不二雄先生と言えば、『ドラえもん』、『パーマン』、『キテレツ大百科』、藤子不二雄A先生との共著では『オバケのQ太郎』など、誰もが知っているまんがを生み出した漫画家。

本書のタイトルにある『発想術』という言葉から、藤子・F・不二雄先生がそれらの膨大な漫画を生み出した発想の方法を紹介するという趣きを感じる。

しかし、本書はけっしてそういったビジネス書的・ハウツー本的なこじんまりとした枠には収まりきれない本、あるいはそういった枠に収めてはいけない本なのではないかと言えるだろう。

「僕の歩んできた道」

第1章の「僕の歩んできた道」では、漫画家を目指した少年時代の回想、漫画の神様として憧れていた手塚治虫氏との関わり、トキワ荘時代の生活ぶりなど、藤子・F・不二雄先生が漫画家を目指して歩んできた時代を語る。

第2章の「僕のまんが論」では、自らの書いた漫画のみにとどまらない漫画一般について語る。人気漫画とはどんな漫画であるか、その人気漫画はどうやって描けばいいのか、「人間を描く」とはどういうことなのか、など。そして藤子・F・不二雄先生の抱いていた、漫画を描く姿勢にまで話は行き着く。

本書は全4章立ての構成だが、前半のこの2章で本書の3分の2を占める。 これらは、藤子・F・不二雄先生が自らの人生や仕事の歩みを語る部分だ。それらすべてが即、発想のノウハウといった『発想術』に結びつくものではない。

けれども、藤子・F・不二雄先生が生み出してきた漫画の発想の根底にはどのような経験や理念があったのかを探ることができる。

そういった部分を読むと、いかに子どもの頃に抱いた夢や憧れといったもの、あるいは子どもの頃のさまざまな挑戦や経験が大切かということがよくわかる。


漫画の神様から返事をもらうために

藤子・F・不二雄先生の場合ならば、子どもの頃から手塚治虫に憧れており、手塚治虫のような漫画を書きたいという夢を持っていた。そして子どもの頃から漫画を書き、同人誌を発行し、漫画雑誌に投稿するという挑戦や経験がある。

その一例として、次のようなエピソードがある。

手塚治虫にファンレターを出すにも、全国から手紙が殺到していると想像し、なんとか手塚治虫の目にとめてもらおうと、手紙に付録をつけた。

その付録というのは、手塚治虫肖像画(油彩)を送ったり、手塚治虫の漫画の一場面のミニチュアセットをつくり、それを写真に撮って送ったり……と、とにかく工夫を凝らしたもの。

そうして、ようやく手塚治虫から返事が届くのだ。

藤本(藤子・F・不二雄先生の本名)少年は、その手紙を持ち、一目散に我孫子藤子不二雄A先生の本名)少年の元へと走る。途中で転んでズボンが破けて膝から血を流しながら。

そういった夢や憧れ、そして挑戦と経験が藤子・F・不二雄先生の生み出した漫画には注ぎ込まれている。これこそが数々の名作を生み出した発想の原点とも言えるだろう。

だからこそ、ナニカをナントカカントカすれば、即発想できる! といったビジネス書的・ハウツー本的な内容には収まらない本なのだと言えるのではないかとわたしは思うのだ。

すべての藤子・F・不二雄先生のファンに読まれるべき本

ところでわたしの子どものころの愛読書といえば、ドラえもんの単行本だった。ドラえもんの単行本を何度も読み返し、テレビで放映されるアニメを観て、春に公開される大長編映画を観た。

もちろん、ドラえもんだけではなく、オバケのQ太郎キテレツ大百科パーマンエスパー魔美、忍者ハットリ君、怪物くん、ポコニャンチンプイなど、A先生との共作も含めば、藤子不二雄先生の生み出したあまたの作品を本で読み、テレビアニメを観て育ったと言っても過言ではない。

わたしの子どものころの森羅万象に関する基本的な知識は、そのほとんどを藤子不二雄作品から得ていた。いまだに時々それらの作品に触れると、宇宙や恐竜やロボット、お化けや超能力などが登場、すぐそこに少し不思議な世界が繰り広げられていて、また新たな発見をする。

本書を読んで藤子・F・不二雄先生が自ら語る回想や言葉たちに触れ、ドラえもんキテレツ大百科などの本を読み返し、あるいはテレビアニメを見直すと、藤子・F・不二雄先生が作品に込めた思いをより一層、深く感じることができるはずだ。

同時にまた、あのキャラクターやあの物語を生み出した根底にあるもの、そういったものの一端に触れることができる。

繰り返すが、本書はけっして『発想術』というタイトルから連想される、ビジネス書的・ハウツー本的な枠には収まりきれない本、あるいはそういった枠に収めてはいけない本なのではないかと言える。

むしろ、ドラえもんをはじめとするすべての藤子・F・不二雄作品のファンに、広く読まれるべき本なのである。


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