いい人は自分の善良さを知らない/ポール・オースター著 柴田元幸訳『闇の中の男』新潮社
ポール・オースター の『インヴィジブル』が届くまでのあいだ、前作の『闇の中の男』を読み返していた。こっちは祖父と孫娘の交流を主軸に、家族を襲った悲劇を、二つに分裂して内戦するアメリカの姿を交えながら描き出す。アメリカが壊れつつある状況でも、正気を保つよすがとしての家族を描く。 pic.twitter.com/llrO6JmZFE
— のびゲートウェイ (@nobitter73) 2018年12月21日
不眠症に悩む老人ブリルは二つに分かれ内戦するアメリカを夢想する。対立が分裂を生み、決定的な断絶に至ったもうひとつのアメリカだ。ブリルはそこに想像上の人物を投げ込んで、どう生き延びるかを見守る。そこでの結末は断絶の果ての悲劇ととして描かれる。救いのない断絶はまさにディストピアだ。
— のびゲートウェイ (@nobitter73) 2018年12月21日
『闇の中の男』では、社会の揺らぎが家族にも影を落とし、運命を翻弄させていく姿を描く。それでも、この世界は転がっていく。心が壊れたままでも、家族は揺らぎながらも互いをよすがとして生きていく。分断や暴力とは対極の家族。信頼と安心を与える存在としての家族。闇の中のかすかな光だと言える。
— のびゲートウェイ (@nobitter73) 2018年12月21日
しかし、この『闇の中の男』では、孫娘の恋人だった男タイタスがブッシュ(息子)大統領やチェイニー、ラムズフェルドを刑務所に入れるべきだと主張するが、トランプが大統領になった世界を目にしたら、どう怒りを表すか気になるところではある。
— のびゲートウェイ (@nobitter73) 2018年12月21日
あと、語り手のブリルが小津安二郎の『東京物語』の解釈を語る箇所もある。『東京物語』の周吉と紀子は血の繋がっていない義理の親子だが、実の親子以上の結びつきがあることを「善良さ」をキーワードに語られる。分裂し内戦を戦うアメリカにない「善良さ」。示唆的なエピソードである。
— のびゲートウェイ (@nobitter73) 2018年12月21日
いい人にも悪い人にも善良さはある。悪い人は自分の善良さを知っているが、いい人は自分の善良さを知らないとブリルは語る。だからいい人は常に自分を疑うと。『闇の中の男』はそういう内省的な態度のないアメリカに怒っているのかもしれない。
— のびゲートウェイ (@nobitter73) 2018年12月21日
参考リンク
1)新潮社/ポール・オースター著 柴田元幸訳『闇の中の男』
www.shinchosha.co.jp
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
管理人のブクログの本棚:http://booklog.jp/users/nobitter73
管理人のtwitterのアカウント:https://twitter.com/nobitter73
管理人のメールアドレス:nobitter73 [at] gmail.com
※[at]の部分を半角の@に変更して、前後のスペースを詰めてください。
『誤読と曲解の読書日記』管理人:のび
Amazon ほしい物リスト
https://www.amazon.co.jp/registry/wishlist/8GE8060YNEQV
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー