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誤読と曲解の読書日記

読書の感想を書く日記です。あと、文具についても時々。

我々のすぐそばにある異世界〜バリー・ユアグロー『セックスの哀しみ』

バリー・ユアグロー柴田元幸訳『セックスの哀しみ』白水uブックス

本書は恋愛をテーマにした連作短編集。短いものは1ページにも満たない作品もある。そのひとつひとつが、不思議な夢を見て目覚めたあとのような読後感を与える。


眠る間に我々はさまざまな夢を見る。その多くが荒唐無稽でまとまりのない話の流れだ。

そんな夢の中で、我々は喜怒哀楽の感情に揺さぶられる。目覚めたあとで、夢の内容を覚えていないにもかかわらず、感情の揺さぶりの余韻だけは身体の中にはっきりと残ることがある。

何か奇妙な異世界を覗き込んでしまったような記憶はあるし、身体の中にそのとき抱いた感情の余韻が残っている。けれどもそれが何だったのか、あるいはどんなことだったのか、はっきりとは思い出せない。夢から目覚めたあと、そんな感覚に陥ることがあるが、本書の読後感はそれに似ている。


ところで、本書がどのくらい不思議で荒唐無稽なのか。本書の短編からふたつほど、その冒頭の書き出しを抜き出してみよう。

「花々」の冒頭。「私がガールフレンドにキスするたびに、そこから花が一輪生えてくる」。
「独白」の冒頭。「私は自分の胸を開いて心臓を取り出し、片手に載せて眺める」。

このように、冒頭から読者を奇想天外な異世界へと引きずり込む。


本書に収められた短編に登場する主人公のほとんどは男だ。

パターンとしては、男が恋愛に破れるという話がこれでもかこれでもかと押し寄せるが、それでいてワンパターンに陥らないのは、やはりユアグローならではの豊かな想像力と巧みな筆致に支えられているのだろう。

本書をめくればすぐに現実世界の根底は揺らぎ、奇妙な異世界に迷い込む。

異世界は我々から隔たったどこか遠いところにあるのではなく、夜見る夢と同じように我々のすぐそばにある。そんなことを感じさせる一冊。


以上はtwitterへの投稿を一部加筆修正したもの。

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