誤読と曲解の読書日記

読書の感想を書く日記です。あと、文具についても時々。

読書日記

過去の遺物ではない後醍醐天皇という存在とその企て/兵藤裕己 『後醍醐天皇』岩波新書

過去の遺物ではないことを明らかに 兵藤裕己 『後醍醐天皇』岩波新書。「賢才」あるいは「物狂」と相反する評価の下る後醍醐天皇像に迫る一冊。後醍醐天皇の企てが明治政府、そして現代の天皇制にまで影響を与えているとの指摘が刺激的。後醍醐天皇の存在と…

本を愛するすべての人への物語/ガブリエル・ぜヴィン『書店主フィクリーのものがたり』ハヤカワepi文庫

本を愛する者たちが必死に生きる姿を描く ガブリエル・ぜヴィン『書店主フィクリーのものがたり』ハヤカワepi文庫。30代後半で妻を亡くした偏屈な書店主フィクリーの心の角がゆっくりと丸くなっていく様子を描く。本を愛する者たちが必死に生きる姿が、じわ…

本に染みついたタバコの臭いを消してみる実験と結果

古本屋で購入した本がタバコ臭かった 先日、某古本屋で古本を購入しました。下記に書いたように、見た目はほとんど新品同然でしたが、ひとつ問題が。ページを開くたびにタバコの臭いが漂い、だんだんと耐えきれなくなっていったのです。古本屋で買った本、見…

亀田俊和『観応の擾乱 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』中公新書

2回目の『観応の擾乱』 『応仁の乱』に引き続き、『観応の擾乱』を読むのも2回目です。 その時の感想です。亀田俊和先生の『観応の擾乱』は統治機構のあり方をめぐる争いを描く。「擾乱」は鎌倉→建武→初期室町と統治者が代わる過程で、新しい室町幕府のあ…

呉座勇一『応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱』中公新書

2回目の『応仁の乱』 ツイッター上で、『応仁の乱』や『観応の擾乱』の読み方を他人に教えたはいいものの、教えっぱなしじゃ無責任だなと思い、それぞれの本をもう一度読み返してみました。そのときの感想です。呉座勇一先生の『応仁の乱』は損切りできなか…

いい人は自分の善良さを知らない/ポール・オースター著 柴田元幸訳『闇の中の男』新潮社

ポール・オースター の『インヴィジブル』が届くまでのあいだ、前作の『闇の中の男』を読み返していた。こっちは祖父と孫娘の交流を主軸に、家族を襲った悲劇を、二つに分裂して内戦するアメリカの姿を交えながら描き出す。アメリカが壊れつつある状況でも、…

境目の不可視さを描く物語/ポール・オースター著 柴田元幸訳『インヴィジブル』新潮社

ポール・オースター 『インヴィジブル』読了。多角的な視点と多重的なヴォイスによって嘘か真実かまったく判別できないエピソードが積み重なっていく暴力と愛の物語。人間が崩壊する過程と崩壊した人間の彷徨が絡みあい、我々が依って立つ世界そのものがぐら…

イスラーム主義の理解への一歩/末近浩太『イスラーム主義』岩波新書

末近浩太『イスラーム主義』岩波新書。イスラーム主義や中東政治とは何かという基本を押さえながら、現代中東の混迷から「もう一つの近代」を模索していく本。読み進めていくに連れ、イスラーム主義や中東政治について、自分は実はまったく何も知らないこと…

【特別編】茶色いものの話/バルザック(石井晴一訳)『艶笑滑稽譚 第一輯』岩波文庫

【特別編】茶色いものの話/バルザック(石井晴一訳)『艶笑滑稽譚 第一輯』岩波文庫:目次 ルイ11世陛下のご遊楽 いかに平静を保てるか こてこてと垂れ込める 参考リンク 今回は特別編です。 バレンタインデーにふさわしい茶色いものの話です。 ルイ11世陛…

生きる上で欠かすことのできない物語/小川洋子『物語の役割』ちくまプリマー新書

生きる上で欠かすことのできない物語/小川洋子『物語の役割』ちくまプリマー新書:目次 生きる上で欠かすことのできない物語 誰もが日々日常生活の中で作り出していく物語 そんなものを自分が持っていたと気づいていないような落し物 子どものうちに物語に…

わけのわからなさを飲み込んで受け入れること/ルイス・キャロル(脇明子訳)『不思議の国のアリス』岩波少年文庫

わけのわからなさを飲み込んで受け入れること/ルイス・キャロル(脇明子訳)『不思議の国のアリス』岩波少年文庫:目次 想像が不安と恐怖を呼び起こす どんどん歩いてゆけば、どこかへはつくさ わけのわからない世界に触れた記憶 参考リンク 想像が不安と恐…

嘘やぺてんのない、真摯でやさしい言葉にあふれた物語/ライマン・フランク・ボーム(河野万里子訳)『オズの魔法使い』新潮文庫

嘘やぺてんのない、真摯でやさしい言葉にあふれた物語/ライマン・フランク・ボーム(河野万里子訳)『オズの魔法使い』新潮文庫:目次 怖いイメージを抱いていた『オズの魔法使い』 父親による子どもたちへのメッセージ 嘘やぺてんのない、真摯な言葉たち …

愛憎と戦争とおっぱいとトラクター/藤原辰史『トラクターの世界史 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』中公新書

愛憎と戦争とおっぱいとトラクター/藤原辰史『トラクターの世界史 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』中公新書:目次 牧歌的なイメージが覆されてゆく一冊 トラクターの光と夢 戦争とトラクター トラクターの文化的側面 参考リンク 中公新書の『トラクター…

『至上の愛』のさらにその先にあるもの/藤岡靖洋『コルトレーン ジャズの殉教者』岩波新書

『至上の愛』のさらにその先にあるもの/藤岡靖洋『コルトレーン ジャズの殉教者』岩波新書:目次 今日的なテーマを含むコルトレーンの音楽 黒人差別への怒りと公民権運動への共感 至上の愛を求めて 参考リンク 今日的なテーマを含むコルトレーンの音楽 藤岡…

「トランプ王国」はどこへ向かっていくのか/金成隆一『ルポ トランプ王国 もう一つのアメリアを行く』岩波新書

「トランプ王国」はどこへ向かっていくのか/金成隆一『ルポ トランプ王国 もう一つのアメリアを行く』岩波新書:目次 陸続きの日本人たちとトランプ支持者たち ミドルクラスから貧困層へ滑る落ちる不安 単純だった世界は取り戻せない 最貧困地域と人種差別 …

嵐が来る前にいたはずの場所には、もう二度と戻ることができないことを知る物語/ジョン・ニコルズ(村上春樹訳)『卵を産めない郭公』新潮文庫(村上柴田翻訳堂)

嵐が来る前にいたはずの場所には、もう二度と戻ることができないことを知る物語/ジョン・ニコルズ(村上春樹訳)『卵を産めない郭公』新潮文庫(村上柴田翻訳堂):目次 嵐が来る前にいたはずの場所には、もう二度と戻ることができないことを知る物語 孤独…

ひょっとすると、それは明日の日本の姿なのかもしれない/水島治郎『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』中公新書

ひょっとすると、それは明日の日本の姿なのかもしれない/水島治郎『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』中公新書:目次 ポリュリズムについて考えるための第一歩 ポピュリズムの持つ「解放と抑圧」 「リベラル」と「デモクラシー」を利用…

わたしたちの内部にひそかに息づく物語をめぐる考察/小川洋子・河合隼雄『生きるとは、自分の物語をつくること』新潮文庫

わたしたちの内部にひそかに息づく物語をめぐる考察/小川洋子・河合隼雄『生きるとは、自分の物語をつくること』新潮文庫:目次 個人の内部にひそかに息づく物語をどうとらえるか 「ピッチャー」と「キャッチャー」 矛盾を抱えながら生きること 物語の解釈 …

半分しかなかった世界の、もう半分を取り戻すために/E・ケストナー(池田香代子訳)『ふたりのロッテ』岩波少年文庫

半分しかなかった世界の、もう半分を取り戻すために/エーリヒ・ケストナー(池田香代子訳)『ふたりのロッテ』岩波少年文庫:目次 半分しかなかった世界の、もう半分を取り戻すために ルイーゼとロッテの両親について 大人になった今、この物語を読む意義 …

わたしたちの意思が適切に反映されるための方策を探る一冊/坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』岩波新書

わたしたちの意思が適切に反映されるための方策を探る一冊/坂井豊貴『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』岩波新書:目次 人々の意思をよりよく集約できる選び方を探る 多数決なるものが、絶対的に正しいものではない 多数決に正当性を与えるために 憲法…

わたしたちの心の奥底まで見透かすグレアム・グリーンの目/グレアム・グリーン(小津次郎訳)『第三の男』ハヤカワepi文庫

わたしたちの心の奥底まで見透かすグレアム・グリーンの目/グレアム・グリーン(小津次郎訳)『第三の男』ハヤカワepi文庫:目次 人間の暗黒面を見つめる物語 無垢な存在としてのマーティンズ ウィーンの街という舞台 この物語について 参考リンク 人間の暗…

サスペンスと冒険、人として大切なことがいくつか/E・ケストナー(池田香代子訳)『エーミールと探偵たち』岩波少年文庫

サスペンスと冒険、人として大切なことがいくつか/E・ケストナー(池田香代子訳)『エーミールと探偵たち』岩波少年文庫:目次 サスペンスと友情と冒険、そして機転と勇気 お金の価値を知っているエーミール 不安が膨らむたくさんの想像 おばあさんの演説 …

ジャガイモが身近にある幸福/伊藤章治『ジャガイモの世界史 歴史を動かした「貧者のパン」』中公新書

ジャガイモが身近にある幸福/伊藤章治『ジャガイモの世界史 歴史を動かした「貧者のパン」』中公新書:目次 「貧者のパン」として世界を動かしたジャガイモ ジャガイモがあぶりだした社会構造 ドイツの市民農園 先人たちの苦闘の歴史 ジャガイモが普段の生…

誰かが誰かを思いやり、時に心を傷ませながらも、信頼する誰かのために動き回る/E・ケストナー(池田香代子訳)『飛ぶ教室』岩波少年文庫

誰かが誰かを思いやり、時に心を傷ませながらも、信頼する誰かのために動き回る/E・ケストナー(池田香代子訳)『飛ぶ教室』岩波少年文庫:目次 ギムナジウムの生徒たちに、かつて子どもだったわたしたちを重ねる マルティンの抱えているもの 孤独のままに…

ユーモアの中にある、人々の墓標を眺めるような物悲しさ/W・アーヴィング(齊藤昇訳)『ブレイスブリッジ邸』岩波文庫

ユーモアの中にある、人々の墓標を眺めるような物悲しさ/W・アーヴィング(齊藤昇訳)『ブレイスブリッジ邸』岩波文庫:目次 行間から滲み出る登場人物たちの心の機微 ユーモアの中に人生に対する寂寥感や諦観が顔を出す それほど洗練されていない、素朴な…

疑問を抱き、言葉にして問い続けること/国谷裕子『キャスターという仕事』岩波新書

疑問を抱き、言葉にして問い続けること/国谷裕子『キャスターという仕事』岩波新書:目次 テレビ報道の危うさや難しさを知り尽くしているからこそ 同調圧力に抗するために 「待つこと」と「沈黙すること」 ひとりのテレビ視聴者として 参考リンク 国谷裕子…

飛び跳ねる野心に跳び乗って、行き着くところまで駆け抜ける/W・シェイクスピア(福田恆存訳)『マクベス』新潮文庫

飛び跳ねる野心に跳び乗って、行き着くところまで駆け抜ける/W・シェイクスピア(福田恆存訳)『マクベス』新潮文庫:目次 飛び跳ねる野心に跳び乗って、行き着くところまで駆け抜ける きれいは穢い、穢いはきれい 鞍ごしに向う側に落ちるのが関の山 参考リ…

滑稽さと面白みの中にある物悲しさと薄ら寒さ/R・ラードナー(加島祥造訳)『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』新潮文庫(村上柴田翻訳堂)

滑稽さと面白みの中にある物悲しさと薄ら寒さ/R・ラードナー(加島祥造訳)『アリバイ・アイク ラードナー傑作選』新潮文庫(村上柴田翻訳堂):目次 誰かが誰かに語りかける物語 実にアメリカ的な陽気な笑い 人間を噛みすてるような諷刺性 「ハーモニイ」…

あたたかなまなざしと、やさしさに満ちた愛情/J・ヒルトン(白石朗訳)『チップス先生、さようなら』新潮文庫

あたたかなまなざしと、やさしさに満ちた愛情/J・ヒルトン(白石朗訳)『チップス先生、さようなら』新潮文庫:目次 ユーモア精神とあたたかなまなざし 平凡な教師、チップス先生 人生を変えた出会い 爆撃のさなかの授業 『チップス先生、さようなら』 作者…

物足りなさと過剰さが同居する一冊/十川信介著『夏目漱石』岩波新書

物足りなさと過剰さが同居する一冊/十川信介著『夏目漱石』岩波新書:目次 評伝ではあるが…... 作品と生涯の関係 参考リンク 評伝ではあるが…... 十川信介著『夏目漱石』岩波新書。本書は、タイトルどおり、夏目漱石の生涯を描く評伝である。漱石の出生から…