あたたかなまなざしと、やさしさに満ちた愛情/J・ヒルトン(白石朗訳)『チップス先生、さようなら』新潮文庫:目次
- ユーモア精神とあたたかなまなざし
- 平凡な教師、チップス先生
- 人生を変えた出会い
- 爆撃のさなかの授業
- 『チップス先生、さようなら』
- 作者ジェイムズ・ヒルトンとこの物語について
- 参考リンク
ユーモア精神とあたたかなまなざし
ジェイムズ・ヒルトン(白石朗訳)『チップス先生、さようなら』新潮文庫(Star Classics名作新訳コレクション)は、1933年に発表された小説。チップス先生が老後の穏やかな生活を送りながら、過去の学校生活を回想してゆく物語だ。1933年の発表から80年を経た今も、世界的名作として読み継がれている作品である。
こんなにも皆から愛されていたチップス先生は、本当に幸せな教師だったんだなあと、読み終わったあとはあたたかな気持ちになる。そしてまた、自分が子どもだった頃に、こんな先生がいたらよかったのになあと、ブルックフィールド校の生徒が少しうらやましくも感じる。
それは、この物語のところどころに、チップス先生と生徒たちとのやりとりが描かれているが、そのひとつひとつがユーモアと生徒に対するあたたかなまなざしに満ちているからだ。チップス先生は数十年にわたる教師生活を振り返るが、いやな思いをした生徒や悪い思いを抱いた生徒などは、その思い出の中に皆無なのである。チップス先生の生徒に対するあたたかなまなざしと、やさしさに満ちた愛情が見て取れるだろう。
教師を引退して十年以上経ったチップス先生は、かつて勤めていた学校と道路を挟んだ向かい側にある部屋を借りて住んでいる。その部屋で教師時代のことを思い出しては、押し寄せてくる愉快な気持ちと悲しい気持ちをしみじみと味わう。たくさんの生徒たちとのふれあい、厳格だがユーモア精神にあふれた授業…...。わたしたちは、そんなチップス先生の教師人生を一緒に眺めてゆく。
※以下、ネタバレ的な要素が含まれています。